はるの魂 丸目はるのSF論評


モナリザ・オーヴァドライブ
MONA LISA OVERDRIVE

ウィリアム・ギブスン
1988


 解説の山岸真氏が、1986年から本書「モナリザ・オーヴァドライブ」発行までの時代の雰囲気を伝えている。「とくに日本では、人々は競ってギブスンのことを語った。パソコン雑誌やロック雑誌、ビデオ雑誌、文芸誌、一般週刊誌、美術雑誌、広告会社の社内報、カルチャー講座…」「やがて、本書の抜粋が雑誌に掲載されはじめた。まず本書第十五章がアメリカのライフスタイル雑誌High Time八七年十一月号に。あけて八八年初頭、世界のどこよりも早くこの日本で、第一章の翻訳が資生堂のPR誌<花椿>八八年三月号に」
 1988年6月にイギリスで発行、11月にアメリカで発行、そして、翌89年2月10日付けで、本書「モナリザ・オーヴァドライブ」がハヤカワ文庫SFより、黒丸尚訳で邦訳出版された。
 このスピード感、この喧噪と興奮を見よ。
 80年代前半からの知的冒険の季節の最後を盛り上げるかのような事態である。知的スノッブはこぞって「サイバーパンク」の語を使いたがり、時代の空気はここにあるとうそぶいていた。SFが今よりはるかに一般的で、世界は未来を夢見ていた時代である。
 テキストの意味なんて、みんながひとりひとり勝手なことを語り、コンテクストが自由に書き換えられていた時代の話だ。

 主人公のひとりは、やくざの大親分の娘・久美子。安定していた日本の裏社会で抗争が勃発し、彼女はロンドンに避難させられる。しかし、ロンドンで別の騒動に巻き込まれてしまう…。
「ニューロマンサー」「カウント・ゼロ」に続く、三部作最終章である。
 舞台は、「ニューロマンサー」が未来の千葉シティにはじまるのと同様に、成田空港からはじまる。「カウント・ゼロ」から7年後。「ニューロマンサー」から数えて、ほぼ15年後のできごとである。
「カウント・ゼロ」の、ボビイやアンジィが登場する。それぞれ7歳年をとって、もう少年少女ではない。 「ニューロマンサー」のミラーシェード・モリイも登場する。こちらは15年経って、少々くたびれているようだが、あいかわらず格好いい。ケイスの未来も分かる。
 三部作にすべて登場するのは、フィン。まさかこの人が全部に登場するとは思わなかったけれども、そういうものなのだろう。人生って。
 もちろん、新たな登場人物にはことかかない。
 タイトルの名前を持つ少女モナ。バイオAIのコリン。ジェントリイ、スリック、チェリイのでこぼこトリオ。そして、久美子、アンジィ、モナの3人を取り囲むそれぞれの個性的な男達。恋愛なし、ビズあり、たくらみあり、死体あり、だ。
 今読んでも古くはない。
 ぜんぜん。
 当時よりはるかにビジュアル化しやすいね。
「マトリックス」とか「攻殻機動隊」とかあるしね。
「サイバーパンク」って言葉は、手あかがついたけれども、そして、「サイバーパンク」の代表的な三部作と言われているけれども、そんなこと関係ない。
 ビジュアルなドラマとして頭の中で映像やアニメにして読んで欲しい。楽しいよ。
 21世紀初頭らしい読み方ができる。
 あと20年経ったら、どんな風に読めるだろうか??
 それも、生きていたらの楽しみにしておこう。



(2006.08.03)







TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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