はるの魂 丸目はるのSF論評


星海の楽園
HEAVEN'S REACH

デイヴィッド・ブリン
1998


「知性化シリーズ」としてはじまった「サンダイバー」「スタータイド・ライジング」「知性化戦争」に続く、「知性化の嵐」3部作を締めくくるのが、本書「星海の楽園」である。第四銀河系そのものが酸素呼吸種属に対して休閑されていたなか、惑星ジージョには、数千年に渡って次々と酸素呼吸種属たちが、同族から、あるいは敵種属から、あるいはそれぞれの目的のために逃げ、隠れて暮らしていた。謀略と同盟、陰謀と裏切りの渦巻き、その種属と知性化で成り立つ種属系列の存続と強大化をすべてに対して優先する銀河社会から逃れた彼らは、様々な紛争と憎しみを乗り越え、大いなる平和と休閑惑星の生態系に対する配慮に満ちたつつましい生活を是としていた。
 しかし、彼らはいつか銀河社会に見つかり、銀河社会による公平で冷酷な裁きがあることを心得ていた。そして、かつて先達の種属によって知性化された彼らが自ら知性を放棄していく道をたどることで、その祖先と自らの罪の贖罪を果たそうと考えていた。しかし、そんな彼らを突然襲ったのは、違法遺伝子略取者や横暴な軍船によっての蹂躙であった。彼らのねらいは、「スタータイド・ライジング」で登場した地球のネオ・ドルフィンによる探査船ストーリーカーであった。ストーリーカーが、銀河の辺境で発見した「秘密」を求めて、銀河列強がストーリーカーを目指す。そして、この発見が、緊張状況にあった銀河社会の崩壊を招こうとしていた。
 第二部「戦乱の大地」で惑星ジージョを脱出したストーリーカーは、惑星ジージョの種族の若い代表達を乗せて、惑星ジージョを守るべく敵艦を引き連れ星系と第四銀河系からの離脱を図る。果たして、この決死の試みは成功するのだろうか?

 一方、ネオ・チンプで最初の航法協会監視員となったハリー・ハームズは、5銀河系が変革の時を迎えていることを知る。5つの銀河系をつなぐ遷移点が混乱しはじめたのだ。
 銀河系全体が混乱と危機と死を迎える中で、これまでに登場してきた惑星ジージョの若い成員達、それぞれに違うきっかけで宇宙に出ることとなったジージョの3兄姉、ラーク、サラ、ドワー、ストーリーカーのクルー達が、危機の中で、知的生命体同士のつながりを知り、生きる道、死ぬ道を知り、選択を行っていく。
 あるものは、同族に道を指し示すものとして暮らす道を。
 あるものは、残された唯一の希望としての道を。
 あるものは、生命系列を超えてつながり、融合し、生きる道を。
 あるものは、遠き離別をつなぐものとして旅する道を。
 あるものは、新たな生命の世界を拓くものとして離別と希望の道を。
 そして、あるものは、自らが本来いる場所で、本来すべきことをするために帰る道を。
 その次々に訪れるいくつもの選択の道に、長い長い小説の旅を続けたカタルシスが訪れる。
 この1カ月余り、「知性化」シリーズを順番に読み、その登場人物や種属の特徴、エピソードを記憶しているままに本書「星海の楽園」を読むことができた。それゆえのおもしろさ、感動を味わうことができた。出版されるたびに読んでいたが、こうしてまとめて読み返すと、忘れていたり、分からなかったりすることもなく、多くのキャラクターとともに楽しむことができた。
 実は、「知性化」シリーズはまだ続きを書くと作者は言っている。そうなったらまた読み返すことになるのだろうか? 困った。


 とりあえず、今は、「知性化」シリーズの短編で、唯一文庫本に収められている「誘惑」(『SFの殿堂 遥かなる地平1』ハヤカワ)を読んで、余韻を楽しんでおこう。

(2006.6.8)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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