はるの魂 丸目はるのSF論評


戦乱の嵐
INFINITY'S SHORE

デイヴィッド・ブリン
1996


 本書「戦乱の嵐」はデイヴィッド・ブリンによる「知性化の嵐」三部作2作目である。原題は、「無限の岸辺」とでも言おうか。邦題でも原題でもどちらでもかまわない。つまりは、三部作の真ん中である。
 あえて章立て風に言えば、第一部「変革への序章」が「人の章」、本書「戦乱の大地」が「地の章」そして、第三部「星海の楽園」は「天の章」とでも名付けたくなる。
 まったくもって、「変革への序章」に続く物語であり、第一部の最後に登場した巨大な宇宙戦艦が、銀河の大種属でももっとも冷酷な存在と目されているジョファーのものであることが明らかにされる。それと同時に、第一部でそれとなく存在をにおわされていた秘密があっけなく明らかにされる。それは、デイヴィッド・ブリンの「知性化シリーズ」の中核をなす「スタータイド・ライジング」に登場し、全銀河系の諸種属系列から追われるネオ・ドルフィンの探査船「ストーリーカー」である。なぜか、ストーリーカーは「スタータイド・ライジング」で危機を脱した後、さらにいくつかの危機を超えて、舞台となる惑星ジージョの海の底深くに隠れていたのである。
 かくして、第一部で6種属を苦しめた宇宙種属ローセンを蹴散らしてあっという間に惑星ジージョに支配と恐怖をもたらしたジョファー、ジョファーの従兄弟種属でありジョファーから逃げ出して惑星ジージョに暮らしていたおだやかな種属である嚢環種属トレーキの賢者アスクスがジョファー化させられたユウアスクス、そして、いまだに6種属には知られていない「ストーリーカー」に乗る、ネオ・ドルフィン、ヒトと預かっている人工知性体、ストーリーカーに乗った両生類型準知性体のキークィーが新たな登場人物として登場し、6種属のみならず、知性を放棄した種属グレイバー、あるいは、惑星ジージョに原住した賢い動物として知られるヌールに加え、惑星そのものまでもが「主要登場人物」となって、物語は、惑星ジージョの各地、ジョファーの巨大戦艦、深海、宇宙を舞台に激しく絡み合い、ドラマティックになっていく。
 この第二部「戦乱の嵐」に比べれば、第一部は登場人物と種属の紹介編でなかったかと思うばかりである。とにかく、一気に読み終えられるであろう。
 第一部で活躍したフーンの子どもでアーサー・C・クラークの名著「都市と星」の主人公の名前を持つアルヴィンと仲間達や、蟹型の種属ケウエンの「刀」、あるいは、嚢環種属トレーキの賢者アスクスがジョファーのユウアスクスとなって物語を引き立てる。
 そして、最初から登場している紙漉師ネロの3人の子どもたちの物語も見逃せない。異端思想の若き賢者ラークは宇宙種属ローセンとともに宇宙から来たヒトのランとともに、数学者のサラは、宇宙から降ってきた言葉を失った賓(まれびと)=エマースンとともに、超常的な共感能力を持つ猟師で旅人のドワーは、一度はローセンの船に乗った辺境出身のレティとその小さな夫となったウルのイーとともに、それぞれが3つのペアとなりながら、すべての登場人物とからまり、物語を導いていく。
 もちろん、ストーリーカーのネオ・ドルフィンや事実上の指導者となっているジリアン・バスキンの物語も見逃せない。
 とにかく楽しめること請け合いである。
 異端であり滅びの道を探していたラークが「おれはほんとうは死にたくないんだ」と自らの生への執着を認識し、個=孤に固執する他種属のありようが理解できないアスクスは個であるヒトの「勇気」という根源的な原動力について洞察する。
 とにかく、登場人物のみんなが「生きること」と仲間を「生かすこと」のために全力をつくし物語がつっぱしっている。そこがいい。そこが物語を一気に読ませる。
 内容については、語ることはない。さあ、第三部「星海の楽園」だ。

(2006.6.3)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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