はるの魂 丸目はるのSF論評


ファウンデーションの勝利
FOUNDATIN'S TRIUMPH

デイヴィッド・ブリン
1999


グレゴリイ・ベンフォード、グレッグ・ベア、デイヴィッド・ブリンの3人による公式の銀河帝国興亡史新3部作を締めくくるのが、本書「ファウンデーションの勝利」である。
 前2作品で、アイザック・アシモフによる正統ファウンデーション・シリーズのミッシングリングを違和感なく埋め、物語は大きな円環を描いた。それは、半世紀におよぶひとつのSF史の完結でもあった。そして、未来への予兆を描き出したのが、「ファンデーションの勝利」である。
 もっとも、銀河帝国史の中では、ハリ・セルダンの最晩年を描いたものであり、ターミナスに銀河百科事典編集を目的とした科学者達が移住を行っていた時期である。ほぼすべての役割を終えたハリ・セルダンは、ごく少数の人たちからの世話を受けながら、自らの死期を待っていた。そこに、荒唐無稽な統計を持った無名人が登場する。土壌の専門家という彼は、帝国の星々の土壌の中に、別の進化を遂げていた生物の化石が見つかるなど、奇異な事実があるというのである。それらの惑星には、ハリ・セルダンを悩ませ続けた「混沌」世界の誕生がみられ、土壌の特徴と有意な関連があった。この事実を知ったハリ・セルダンは、軟禁状態の惑星トランターを抜け出し、混沌の原因を探るべく調査に出る。
 そこには、2万年にわたる人類とロボットの歴史の闇が潜んでいた。
 果たして、心理歴史学とファウンデーションは、R・ダニール・オリヴォーが画策する未来の人類像であるガイアやガラクシアのためのつなぎにしか過ぎないのか? それとも、第三の道があるのか? 「ファウンデーションの彼方に」以降の人類の方向性について、新たな視点で未来を語るのが本書である。
 そして、なぜアシモフの宇宙に人類以外の知性体がほとんど見られないのかも明らかにされる。

 本書もまた他の2作品同様、アシモフ世界の忠実な物語であると同様に、デイヴィッド・ブリンの作品でもある。ただ、先のふたりと異なるのは、デイヴィッド・ブリンは、自らの作品世界を確立している一方で、様々な作家と共作あるいは、作家の意志を受けての作品を書いている実績を持っている。そのためよりアシモフ的である。それこそが、三部作の最後に選ばれた理由でもあるのだろう。
 と同時に、ブリンの代表的シリーズである「知性化」シリーズを彷彿とさせるようなくだりもある。まったく違う世界でありながら、接点が生まれるところに、シェアワールドもののおもしろさがある。
 本書に限って言えば、せめていくつかのアシモフ作品、あるいは、ファウンデーションシリーズをある程度読んでいなければ真のおもしろさはない。数々のアシモフ作品がぎっしりと詰め込まれた、楽屋落ち的な作品だからだ。
 逆に本書を読むと、ファウンデーションシリーズ以外のアシモフ作品が読みたくなる。
 そんな気持ちにさせてくれるあたりが、デイヴィッド・ブリンの力量なのだろう。


(2006.4.30)





TEXT:丸目はる
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