はるの魂 丸目はるのSF論評


テラの秘密調査官
SEACRET AGENT OF TERRA

ジョン・ブラナー
1962


 1978年にハヤカワ文庫SFで出ている「テラの秘密調査官」は、私が持っている唯一のジョン・ブラナー作品である。おそらく中学生の頃に買ったもので、一度読んだっきりになっていた。当時は、あまりおもしろいとは思わなかったのだが、不思議なものである、以来25年以上経って読み返してみると、意外とおもしろかった。
 ストーリーはこうである。750年前、人類の移民星のひとつツァラトゥストラの太陽がノヴァ化した。植民者達はあわてて近隣の星系に避難したが、生き残ったのは1星系に逃れた避難民だけと考えられていた。しかし、120年ほど前、人類文明の守護者である銀河連盟軍団はいくつもの惑星にツァラトゥストラからの避難民が生きのびていることを発見した。人類文明は、文化的・文明的に変わり果て、独自の発展をしようとしているこれらの避難星に干渉せず、その発展を見守ることとした。それは、彼らのためではなく、人類文明とは違う発展のしかたから、新たな発見ができるのではないかと期待したからである。しかし、なかには、これら非文明人たちを高度な軍事力で征服し、奴隷として利用しようとする犯罪者もいる。そこで銀河連盟軍団は、秘密調査員をそれらの惑星に潜入させていた。そんなツァラトゥストラ避難民惑星第十四号(ZRP14)では、惑星に住む翼竜を王とする王政がしかれていた。毎年一度、選ばれた氏族の勇者が王殺しに挑み、王が殺されれば、殺した氏族が王の代理人として首都を統べる。もし、王が生き続ければ、その氏族は支配者で居続けることができるのだ。それぞれの氏族はトーテムをもち、この18年は翼竜パラダイルをトーテムとする氏族が栄華を誇っていた。その年も、新たな「王殺し」の季節がやってきたが、南国から来たひとりの男が「王殺し」参加の権利を申し立てる。それは認められ、その男は稲妻のような魔法を使って王たる翼竜を殺し、支配者の座についてしまう。それは、不幸のはじまりであった。
 もちろん、その新支配者は異星人であり、秘密調査官は彼らの陰謀をあばき、その惑星の人々に気づかれないように彼らを排除し、現状に復旧しようとする。しかし、それ以前に秘密調査官のひとりは殺されており、かわりに、軍団に入って2年目で、問題児の美貌の女性が捨て駒として送られることになったのだ。
 といった具合である。
 本書「テラの秘密調査官」が私にとって「意外と」おもしろかった理由は、ZRP14の社会が、文化人類学の教科書のような設定をしてあったことである。「王殺し」「氏族とトーテム」などが、短い作品の中で書き込まれていて、学生時代にちょっくら文化人類学をかじった人間にとっては心地よい設定だったのだ。これに、「銀河連盟軍団」などというレンズマンのような集団が登場し、それほど能力のない秘密調査官が出て、いつの間にか事件は解決されるのだが、初期設定に対して、展開があまりにもあっけなく、そのあたりがちょっとものたりない。ただ、この作品が出された当時の状況を考えると、現在のような1冊1000ページを超す作品はなかなか受け入れられず、200〜300ページがせいぜいだったのだからやむを得ないのかも知れない。もし、これが破綻のない大長編だったらもっと楽しめたのでは、とも思う。ただ、このくらいの長さの作品だと、起こったであろう「間の出来事」を想像して補完することができる。それはそれで楽しいものだ。
 本書「テラの秘密調査官」は、設定が設定だけに、今読んでもそれほど古さを感じさせない作品である。入手困難な作品であるが、中世的設定が好きな方は読んでみてはいかが。


(2006.1.7)






TEXT:丸目はる
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