はるの魂 丸目はるのSF論評


時空の支配者

MASTER OF SPACE AND TIME

ルディー・ラッカー
1984


 新潮文庫から吾妻ひでお氏のイラストで登場したのが、R・ラッカーの「時空の支配者」。翻訳はもちろん黒丸尚氏(故人)。昭和62年(1987年)に国内で出版されており、ラッカーの長編初翻訳作品だった。現在は、ハヤカワSF文庫にも収録されている。もちろん黒丸訳のまま。こちらの表紙は横山えいじ氏。個人的には吾妻氏の表現世界とラッカーの文章(黒丸訳)はとても合っていると思うので、もし機会があったら、ぜひ新潮版を探して欲しい。

 さて、ラッカーである。「時空の支配者」と来たものだ。難しく言えば、時間とは、空間とは、世界とは何か? に迫る本格ハードSF、なのだが、そこはラッカーである。とんでもないふたり組が、3つあるいはそれ以上の願い事を叶えられる機会を得たら、何をしでかすか? 世界を救う? とんでもない。彼女や妻の頼み事を聞き、トカゲをゴジラに変身させ、金を手に入れ、思いつくまま、気の向くまま…なんてったって「時空の支配者」なのだから。ところがそうは世界は簡単にいかないもの。別の世界からこの世界に「あれ」が侵入してくる、宗教は起こす、脳みそが背中に乗っかってぐにぐにする、ポークチョップの藪とフリッターの森が世界を浸食する…。そこで、飲んだくれながら、裸の羽根をつけた空飛ぶ美女の背に乗って、男はひとり闘うのだった。世界を救うために!!!!
 SF的アイディアシンプルかつ途方もないもの。それは、プランク定数を「だます」こと。必要なのは、グルーオン。さて、どうなりますことか。
 笑いが必要な方も、宇宙論、時空論が好きな方も、どちらも間違いなくご満足いただけるのがこの作品のいいところ。今こそあなたは真実を知るのだ! 誰が宇宙をつくったのか。

 ところで、もし3つの願い事がかなえられるならば、私は何を願うだろうか?

 人類の力で人類を含む地球の生態系がいくつかの太陽系外惑星に移植され、それぞれのあり方で繁栄する未来。
 そこそこ健康で、そこそこの人生の中に、今も一緒に食べる人との日々の恵まれたご飯。おいしい食材、米、魚、野菜、豆、肉、醤油や酢がいつまでも手に入り、いい水と空気と土と、燃料に恵まれること。
 たくさんのSFとファンタジーに恵まれ、多くの人が、SFとファンタジーの本を読み、出版を願うような状況。

 なんてわがままな願いだろう。でも、まずは、米!かな。



(2005.09.17)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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