はるの魂 丸目はるのSF論評


恐怖の疫病宇宙船

PLAGUE SHIP

アンドレ・ノートン
1955


 太陽の女王号シリーズ第2弾である。翻訳されているのはここまで。本書も前作「大宇宙の墓場」に続いて、松本零士氏の表紙、イラストである。前作品は、イラストと内容がかなりマッチしていたのだが、本作品は、表紙からして内容とかけ離れている。アンドレ・ノートン作品に女性は出てこない。本書にも出てこない。なのに、表紙には横たわる女性の姿が。たしかに、今回は、太陽の女王号の若手4人を除いて船長以下、船医も含めて病気になり、死なないまでもみんな半睡眠状態に陥ってしまうのだからあながちイラストも間違いではないが、太陽の女王号には女性は乗っていないぞお。

 と、表紙につっこんだところで。
 インターネット時代はすごいなあ。本書を読み終え、その中途半端な終わり方に、続編があるのではないかと思って検索したら、太陽の女王号シリーズのファンサイトがあり、日本語で、全シリーズの紹介が行われていた(文末にサイトリンク)。それによると、本書のあと、1959年、69年に続編が出されており、その後、20年以上を経て、93年に1冊、97年に2冊、同シリーズが別の2人の著者との共著で出されている。この新シリーズでは、女性が登場し、ロマンスまであるらしい。なんと時代の変化か、共著者のせいなのか。
 びっくりである。

 話を、本書「恐怖の疫病宇宙船」に戻そう。前作品で新たな惑星の開発権を得た太陽の女王号が向かった惑星には、権利を持たない大企業が交易を開始しようとしていた。彼らの不当な介入に対抗しながら、現住の知的生命体との間で信頼と交易を取り結ぶ太陽の女王号のメンバー。交易は最高のできばえだったが、最後に、彼らから先渡しで期限を切られた契約を求められる。独立した自由貿易船にとって、先渡し契約や期限を切られることはあまり嬉しい仕事ではない。宇宙では予定や日程のずれがあたりまえだからだ。だから、そのような契約は不幸を呼ぶと嫌われている。
 案の定、出発した太陽の女王号を疫病が襲う。乗員が次々と倒れていくのだ。無事なのは、現住の知的生命体たちから無理矢理にまずい飲料を飲ませられた若手4人だけ。
 商売を邪魔された大企業の策略と疫病の発生で、太陽の女王号は宇宙のお尋ね者となり、星間パトロールからいつ攻撃されてもおかしくない船となってしまった。
 この危機を見習い4人は回避できるのか? できなければ不名誉な死が待ちかまえている。
 彼らは、手助けしてくれる医師を捜すため、かつて大規模な核戦争が起こり、今や誰も近寄ろうとはしない地球の大焦土地帯の中心に降りることとした。そして、彼らの疑惑を晴らすための大活躍がはじまった。

 というような話である。
 今回の後半は若手の4人ががんばる話である。前作や今作の前半のように、先任たちがかっこよく危機を次々と回避するのをあこがれて眺めるだけでなく、若手が自らの力で危機を回避しなければならない。まあ、そのために乗員が病気で眠りにつかなければならなかったのだが。
 本作「恐怖の疫病宇宙船」では、ノートン作品らしく、猫や猫型知的生命体、それに、船長のペットで、なにかわからないが怖い感じのペットが大活躍する。そうでなくっちゃあ。動物が活躍するシーンになるとノートンの筆が冴える。
 猫に囲まれて暮らしていたノートンならではである。

 ちなみに、先のファンサイトによると、2005年3月17日、93歳にて本名アリス・メアリー・ノートンことアンドレ・ノートンが亡くなったそうである。今頃、彼女と暮らしていたたくさんの猫たちが彼女を迎えていることであろう。

 私の手元にあるノートン作品も現在のところここまでである。
 たしか、「魔法の世界のエストカープ」がどこかにあったかも知れないが、今のところ見つかっていない。機会があれば、読んで感想を書いてみたい。

参考ウエブサイト:BROUNのかけら
http://www.geocities.jp/color_kakera12/brown.html


(2005.6.10)





TEXT:丸目はる
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