はるの魂 丸目はるのSF論評


竜を駆る種族

THE DRAGON MASTER

ジャック・ヴァンス
1962


「タフの方舟2」(ジョージ・R・R・マーティン)の解説に、本書の名前が出ていたので、書棚の奥から取り出してきたのが「竜を駆る種族」である。昭和51年の発行日(文庫初版)と250円の価格が古さを物語る。中学か高校の時に買って読んだ本の1冊であろう。
 中身についてまったく記憶はなく、今回、あらためて読んで、本書が後の「ドラゴン」作品に与えた影響について考えさせられた。

 宇宙に散っていた人類はいつしか衰退の時を迎え、辺境の惑星エーリスでも細々と生きていた。彼らは、かつて彼らを襲った卵生爬虫類的な宇宙種族ベーシックの攻撃を受け、それをなんとか退けることができた。そして、捕らえた者たちを品種改良し、知性を持った兵士として人類種族同士の勢力争いに使っていた。それが、竜である。
 一方、かつて彼らを襲ったベーシックは、それ以前から人類を品種改良し、兵士をはじめ様々な用途に使ってきた。
 2つの勢力の間で戦争を繰り広げる惑星エーリスの人類。しかし、惑星エーリスには、もうひとつ、波羅門(ばらもん)と呼ばれる人類種族がいて、彼らは、世俗とは離れ、超越的な世界観を有していた。
 そこにふたたび、ベーシックが、人類を狩り、滅ぼすためにやってきた。
 いまここに、人類が使うベーシックを改変した竜と、ベーシックが使う人類を改変した敵兵が、はじめて相まみえる時が来た。生き残るのはどちらだ!
 というようなおおよその話である。

 宇宙での竜を使ったファンタジー的物語といえば、アン・マキャフリーの「パーンの竜騎士」シリーズを思い浮かべる。これが、1968年初出ということになっているらしい(というのは、今、人にパーンシリーズを貸し出していて、確認がとれない)ので、ヴァンスの品種改良竜の方が先ということになるだろう。
 マキャフリーの流れるような物語もたまらないが、ジャック・ヴァンスの場面展開と異質な世界観を軽々と描き出す世界もまた魅力的である。これが中編で終わっていることは実にもったいない。
 私は、ほとんどファンタジーや「剣と魔法」ものを読まないが、竜(ドラゴン)にはついつい惹かれてしまう。洋の東西を問わず、竜というのは人を魅了してやまない存在なのだ。
 竜好きのSFファン、ファンタジーファン、あるいは、せっかく「タフの方舟」で竜に出会った人たちや、「パーンの竜騎士」シリーズで、竜はファンタジーのためだけのものではないことを知った人たちには、ぜひ読んで欲しい作品である。また、最近、「フューチャー・イズ・ワイルド」のテレビと本で話題となったドゥーガル・ディクソンがかつて書いた未来の人類の変容「マンアフターマン」や、恐竜が絶滅しなかった世界を書いた「新恐竜」の迫力ある異様な絵が好きな人にもお勧めしたい。
 なにより、執筆後40年以上経っているのに、決して古くないのだ。
 むしろ、アニメやゲームにできそうな完成度である。
 古き懐かしき、素直なSFだが、その素直さこそ、まだまだ学ぶべきところは多い。

ヒューゴー賞受賞


(2005.5.30)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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