はるの魂 丸目はるのSF論評


ゼロ・ストーン

THE ZERO STONE

アンドレ・ノートン
1968


 ノートン版「指輪物語」である。遠い未来。人類は他の知的生命体とともに宇宙に共存していた。宇宙では文明が何度も興っては滅び、今は新興の人類が各地に植民地を作っていた。しかし、その人類も植民地によっては変容して存在していた。
 宝石商人の父に育てられ、父が殺された後は、放浪の宝石鑑定師の元で修行を積むマードック・ジャーンは、ある惑星で師匠共々罠にはめられ、師匠は殺され、マードックは、フリートレーダーによって救われたものの、次なる罠にはめられていた。
 父が殺されたのも、師匠が殺され、マードックが狙われるのも、すべて、彼が持つゼロ・ストーンのせいである。先史文明のものであり、宇宙空間で発見された死んだ異星人の宇宙服の上からはめられていた指輪が、ゼロ・ストーンである。それをマードックの父が手に入れ、なんとかその秘密を解き明かそうとしていたが、なさぬままに、彼は殺された。マードックも、また、この指輪の秘密を追い求めていたのだ。
 さて、救出されたはずのフリートレーダー船には1匹の猫が飼われていた。その猫は、あるとき、貿易のため訪れた惑星でマードックが拾った不思議な石を飲み込んでしまう。そして生まれたのがイート。猫のような外見だが、テレパシー能力を持ち、高度に知的な生命体である。マードックとイートは、新たな罠をしかけられたフリートレーダー船から逃げ出し、とほうにくれたところで、ゼロ・ストーンが光り始めたのに気がつく。ゼロ・ストーンは、ある方向を目指してエネルギーを発していた。導かれるままに、マードックとイートがたどり着いたのは、先史文明の宇宙船であった。その宇宙船が導いた惑星には、マードックの持つゼロ・ストーンを狙う海賊ギルドと、海賊ギルドを狙うパトロールがいた。マードックとイートは、ふたつの勢力に挟まれ、苦しめられながら、なんとか苦境を逃れようとする。
 ということで、「指輪」「宝石」が登場する。しかし、ノートンの他の作品同様、本作品にも女っ気はなく、動物っけだけがある。ただし、今回の動物は、外面は動物っぽく、猫から生まれた生命体だが、主人公のマードックにテレパシーでああしろ、こうしろと命令し、都合が悪いと沈黙するしたたかな知的生命体である。マードックは、あるときは、イートを仲間だと思い、あるときは、イートにだまされているのではないかと悩み、あるときは、イートのいうとおりにしておけば安心だと考えてしまう。
 ちょっと関係が複雑になっているが、やはり、動物と一緒の冒険成長譚であることは変わらない。ノートン作品に慣れていると、ほっとしてしまう安心感。軽さである。
 しかも、宇宙には、指輪物語に登場している単語が次々に出てきて、未来なのか、ファンタジー世界なのかわからなくなる。
 女の子を救出したりしない分だけ、スターウォーズ(旧3部作)よりもわかりやすい世界だ。もちろん、酒場あり、戦いあり、陰謀あり。軽く楽しめる作品である。

(2005.5.28)





TEXT:丸目はる
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