はるの魂 丸目はるのSF論評


宇宙からの訪問者

THE VISITORS

クリフォード・D・シマック
1980


 スタニスワフ・レムは「ソラリスの陽のもとに」などの作品群で、知性は持つものの人類とは意思疎通ができない異星生命体を描いた。人類はわざわざ異星に行き、そこで、自分たちには理解できないものに出会うのだ。
 本書でシマックは、地球にやってきた人類とは意思の疎通が難しい異星生命体を描き、かれらを前にした人類の様子をシマック流に書き記す。
 黒い巨大な物体が空から降りてくる。重力をコントロールする力を持ち、明らかに「生きて」いる。木を「食べ」、セルロースのかたまりを「出し」、小さな子を「産み」、生まれた子はセルロースの固まりを食べて「成長」する。
 彼らは敵なのか、味方なのか、役に立つのか、迷惑なのか? すべては接する人のありようにまかされる。
 彼らは、彼らでしかない。あまりにも異質なのだ。
「火星人ゴーホーム」でフレドリック・ブラウンは、ブラックユーモアあふれる人型をした理解可能なようにみえて、まったく理解不可能な存在を描いた。
 本書に出てくる訪問者は、ソラリスの海のようでもあり、ブラウンの火星人のようでもある。
 状況としては、ブラウンの方に近いのだろう。小松左京の「物体O」などにも似ている。「ソラリス」の場合は、わざわざそこに出かけて研究しているのだが、ブラウンの火星人も、本書の訪問者も、向こうから来て、一般の人たちに影響を与えているのだから。

 シマックは、この訪問者を迎えた人類、とりわけ当事者となったアメリカ社会が、ふつうの人々は日常を送りながらも、経済は大混乱に陥り、政治家が動揺する様を描く。
 そして、最後の数ページで、彼らからの贈り物と、その可能性について読者に投げかけて幕を閉じる。
 彼らは地球にとどまるのだ。そして、人類は彼らと共存するしかないのだ。
 それは、何を私たちにもたらすだろう。
 異質で、圧倒的な力を持ち、しかも、それを力とは思っていない存在。
 コミュニケーションを交わせない力。
 それを前にして、私たちの社会は、そのままであり得るだろうか?
 シマックは、アメリカ原住民とアメリカの「訪問者」であった西洋人との関係を何度も繰り返すことによって、アメリカ社会のありようを問いかける。
 牧歌的と言われるシマックだが、決して「優しい」だけの作者ではない。

(2005.3.16)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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