はるの魂 丸目はるのSF論評


クリスタル・シンガー

CRTSTAL SINGER

アン・マキャフィリイ
1982


 マキャフィリイほど、テーマのはっきりした作者はいない。テーマは、主人公は女性。ヒーローは女性、だ。知性、機転、美貌、女性の武器を持ちながらもあまたのドラマで、男性の後塵を拝していたり、アシスタント的な役割だった女性を、主人公に、ヒーローにすること。決して男性と同じではない。なぜなら女性だから。でも、女性だって権力欲はあるし、性欲も、名誉欲もある。男性と違って、欲が満たされないからといってそれに固執しないけれど、やっぱりくやしい。そして、また別の道を見つけ、見事に成功してみせる。
 辛いことだってたくさんある。悲しいことだって、落ち込んだり、挫折したり。でも、そんなことを読みたいの? 違うでしょ。あくまでも前へ、前へ。だって、未来は私のものだから。

 音に反応して、エネルギーを発するクリスタル。星間通信、宇宙船などのエネルギー源、コントローラー、メモリーとして欠かせない存在であるクリスタルを産出する星は、その星を管理するギルドによってきわめて厳しい情報制限、人の移動制限がとられていた。
 このクリスタルを採掘できるのは、絶対音感に優れ、声をコントロールできる数少ない人間たちだけ。声楽家のリーダーになる夢をたたれた主人公キラシャンドラ・リーは、その挫折の直後、クリスタル・シンガーという職業の存在を知る。キラシャンドラは、クリスタル・シンガーこそ、自分が望んでいる職業に違いないと、秘密のベールに包まれた惑星ボーリィブランに向かうのだった。

 主人公ははっきりしている。目的もはっきりしている。クリスタル・シンガーの秘密、惑星ボーリィブランの秘密を小出しにしながら、キラシャンドラがクリスタル・シンガーになるまでの過程を描く。
 それだけだ。

 とにかくストーリーを一気に読み通して、すかっとしよう。
 あとがきを読むと、本書の訳者は、このキラシャンドラのサクセスストーリーがお気に召さないらしい。たしかに、今風の言葉で言えば「ありえねえ」話である。
 だが、本当にありえないだろうか。
 こんな風にすいすいと自分のやりたいことを実現させていく若者は、現実の中にも必ずいる。「こんな風になってみたい」そんな願望を素直に昇華させてくれるのも、読書のひとつの楽しみである。


(2005.3.13)

追記(一部削除)
最初に書いたときには、「続編がない」などと馬鹿なことを言っていたが、本書もまた、マキャフィリイの他の主人公同様にシリーズ化され、続編が出ていた。邦訳されているのは「キラシャンドラ」のみであるが、海外ではその続編もある。
お詫びして訂正します。(2005.6.20))





TEXT:丸目はる
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