はるの魂 丸目はるのSF論評


一千億の針

THROUGH THE EYE OF A NEEDLE

ハル・クレメント
1978


 名作「20億の針」の続編である。前著が1950年に発表され、それから28年後に発表された。訳者あとがきによると、もともと前著ではある程度の未来を想定していたが、その中の設定が時代の変化に追いついていなかったため、結果的に前著の設定を1947年と位置づけ、本書を7年後の1954年の設定で執筆することにしたそうだ。つまり、本書は、1978年に発表された、過去を振り向いたSFなのである。
 もちろん、本書は、前著の続編であり、地球人の主人公と彼の共生体となって彼の体の中で暮らすアメーバ状の知的異星人の物語であることに変わりなく、タイムトラベルものではない。そこで、作者は過去を未来と想定して執筆しているのだ。なかなかできることではないが、それだけ人気の高かった前著を大切に扱っているということなのだろう。
 前著ほどの名作ではないが、前著を読んだ人には軽く楽しめる作品に仕上がっている。

 筋書きは、大学を卒業し、島に就職するため帰ってきた主人公。しかし、本当の目的はもうひとつあった。近頃、体調に異変が起きているのだ。共生体のおかげで病気や怪我などからは守られているはずなのに、彼の身体が、共生体では対処できないなにかの原因で不調を来たし、このままでは死ぬかも知れない。主人公が死んでも共生体は他の宿主を探せばいいので困りはしないが、すでに7年に渡って地球人と異星人として秘密を共有し、友情をつちかってきただけに、なんとかしたいものだ。
 そこで、彼らの秘密を知る医師と家族の協力を得て、現在遭難状態にある共生体(異星人)を探しに来るであろう共生体の仲間を捜し、主人公の不調の原因をつきとめ、治療したいと新たな探索を開始する。
 しかし、島に待っていたのは、「ホシ」の影だった。前著で追いつめ、殺したはずの異星人犯罪者「ホシ」がもしかしたら生きているのかも知れない。では、誰の中にいるのか? 島は7年間で人口も増加している。主人公の友だちたちも、もうみな立派な青年だ。
 主人公の青年と共生体は、「ホシ」の影と、体調不良に苦しみながら、同年代の女性など新たな仲間を得て、この難局の解決に向かう。

 そういう筋だ。
 前著でも、共生体を抱えることで、宿主となった人間は、自分の病気や怪我に対して無頓着になる傾向があり、それを共生体は人類の特徴として恐れ、繰り返し主人公に、自分の身を危険にさらすのはよくないと説得する。それでも、「共生体が守ってくれる」と自覚したり、その自覚がなくても「自分は怪我をしにくいらしい」ということを身体が覚えると人間は行動が乱暴になるのだ。
 たしかにそう言われると思い当たる節がある。いや、私には共生体はいないのだが、慣れるという感覚は恐ろしいものだというのは、日常にもあるだろう。私は虫に刺されにくい、風邪にかかりにくい、少々傷んだものを食べても大丈夫…そんな油断が大病を招いたりするのだ。
 本書では、その人間の特性「慣れる」ことについても、多面的に考察する。そのあたりが本書のひとつの魅力である。

 本書も前著同様、推理小説、あるいはミステリー仕立てになっているが、前著の続編としてすなおに楽しみたい。真面目で基本的に無口な共生体「捕り手=ハンター」のとぼけた語り口もよい。新たに登場する少女たちの、やや定型的とはいえ個性的な行動は、本書の魅力を深めてくれる。
 前著を読んで、機会があったら、本書も手にとって欲しい。


(2005.2.5)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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