はるの魂 丸目はるのSF論評


月は地獄だ!

THE MOON IS HELL!

ジョン・W・キャンベル Jr.
1950


キャンベル賞のキャンベルである。現代SFの中興の人。アメリカSFを科学に先んじるセンス・オブ・ワンダーに満ちたものに変えた原動力のひとり。編集者であり、そのアイディアは、アジモフ、ハインラインをはじめ多くのSF作家を育て上げた。
 そのキャンベルの作品である。月にはじめて人類が到着したのが1975年。月の表側はアメリカの領土となった。その5年後、15人の男たちが月の裏側に降り立ち、アメリカ国旗を立て、アメリカ領土を宣言した。月はアメリカの領土となった。
 15人の男たちは、これから1年11カ月に渡って地球との交信もできない月の裏側に暮らし、月の裏側やその地質を探査するのだ。大量の食料、水、空気を送り込むため、彼らは片道切符の宇宙船でやってきた。1年11カ月後、地球から迎えの船が来て、1カ月滞在し、それからともに帰るはずであった。
 しかし、約束の日、宇宙船は着陸に失敗してしまう。
 水、空気は残り少ない。食料もそう長くはもたない。バッテリーの劣化も起こる。電力も必要だ。なにより、地球に、救援を求めなければならない。資金、宇宙船建設、パイロットも足りないだろう。それまで生き抜かなければ!
 なにもない月で、知恵と工夫と、そして、今であれば「そりゃないよ」と思う地質的幸運に恵まれ、彼らは電力を、水を、酸素を、副産物として水素を生み出し、そして、生きのびた。たったひとつの不足を除いて…。
 アイディアだけで書いたような勢いのある作品で、日記形式の作品だが、今読んでもおもしろい。今ならば、火星や土星の衛星タイタン(ティタン)など、呼吸はできなくても大気のある星が舞台になるか。読みたいなあ、そんな作品。
 そうか、映画「ミッション・トゥ・マース」は生き残ったのがひとりだけど、ちょっと近いかも知れない。
 1950年の科学知識を活かして、センス・オブ・ワンダーに満ちた作品に仕上がっている。こんなSFをキャンベルはたくさん読みたかったのだ。きっと。


(2004.12.2)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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