はるの魂 丸目はるのSF論評


辺境の惑星

PLANET OF EXILE

アーシュラ・K・ル・グィン
1966


 ル・グィンのハイニッシュ・ユニバースに属する作品。わが家には、竹宮恵子が表紙を書いたサンリオSF文庫版と、岡野玲子が書いたハヤカワSF文庫版がある。竹宮版はこの作品の「動」の面を描き、岡野版は「静」の面を描いている。
 作品に触れる前に、周辺ばかり書きたがるのは悪い癖だが、もうひとつ、サンリオ版と早川版には大きな違いがある。訳者はどちらも脇明子の手になり、後で出された早川版は訳者曰く訳をあらためたとしている。その訳者のあとがきはまったく内容が違っている。その理由は、サンリオ版には著者による「1978年版への序文 女性解放イデオロギーと私」が巻末に掲載されているからである。
 ル・グィンといえば、常に、SF作家としてフェミニズムに向き合ってきた作者である。いや、そう言われている。実際に「女性の」作家としてフェミニズムをとらえ、解釈し、発言し、また、責められてきた。初期の作品に対し、初期の作家である自分に対し、ル・グィンは1978年に何かを書く必要に迫られたわけだ。それが、この作品の印象を大きく変えている。早川版では、この「序文」はつけられておらず、素直な気持ちで、本書を読むことができる。
 エルタニン第三惑星は、自転周期が地球でいう400日=ほぼ1年。公転周期が24000日=ほぼ65年。この惑星の原住知的生命体はほぼ人類と同じであるが、一生の後半を冬に過ごし、死んでいく。この星に200年前に置き去りとされた人類の末裔は不妊に悩み、残りわずかとなっていた。やがて冬が訪れようという時、それまで群れをなすことのなかった蛮族が軍隊のようになって定住性の現地人類と数少ない人類の居留地を襲ってくる。ふたつの人類は手を結び、蛮族に対峙しようとするが…。
 お互いに自らを「人間」と呼ぶふたつの種族が協力しあうことは可能なのか? その扉は、恋愛によって開かれるのか? 信義によって? 契約によって?
 まあ、そう、むつかしい話ではない。
 SFファンタジーと考えてもいい。
 すなおに、楽しく、さらりと読むもよい。
 ただ、その後のル・グィンのテーマともなる異なる者同士の理解、異人とのコミュニケーションの萌芽がここにはある。そこに、男女、恋愛がからんだものだから、「序文」が必要な事態になったのだろうが、その答えは、後の作品で十分だったのだ。


(2004.11.24)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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