はるの魂 丸目はるのSF論評


タイム・パトロール 時間線の迷路

THE SHIELD OF TIME

ポール・アンダースン
1990


 日本に紹介された「タイム・パトロール」が1960年発表の1冊。本書「タイム・パトロール 時間線の迷路」は、シリーズ第4冊目をまとめたものである。その間、30年の歳月が経っている。しかし、主人公は変わらず、1924年生まれのマンス・エヴァラード。もはや実年齢は分からない。長命化措置を受けているので、年を取るのも遅いのだ。本シリーズでは、1965年生まれ、初登場当時21歳のワンダ・タンバーリィが登場する。どうやら彼女は、この直前の、つまり未訳の巻で時間犯罪者“称揚主義者”に誘拐され、それをマンス・エヴァラードが救出、その後、彼女はタイム・パトロールにスカウトされたようである。
 本書では、1987年・88年のアメリカ、1985年のアフガニスタン、紀元前209年のバクトリア王国、紀元前976年のエーゲ海、1902年のパリ、紀元前31275389年のアメリカ大陸、紀元前13212年〜13210年のアメリカ大陸、1965年のアメリカ、1990年のアメリカ、1137年のシチリア、紀元前1765年、紀元前15926年、紀元前18244年、1146年、それに、ありえなかった時間軸の日々…をめまぐるしく動き回る大きく3編の作品からなっている。そのいずれも、マンス・エヴァラードとワンダ・タンバーリィの年の離れた二人の活躍があり、二人のささやかな愛のはぐくみが薬味を添える。
 そして、彼らを導く上位のタイム・パトロールの存在、無任所員としてのマンスの活躍、専門職としてのワンダと他のタイム・パトロールとの葛藤、多くのタイム・パトロールとの邂逅と協力関係…、何かに似ている。前作とは違う何かのにおいがする。

 そうだ。この組織と、このヒーロー、ヒロインは…レンズマンだ。

 ドク・E・E・スミスが生んだ永遠のスペースオペラ「レンズマン」シリーズのレンズマンという組織、そして、それを生み出した上位の存在、自由でありながらも軍隊的であり、ヒーローは無任所員的な扱い“グレーレンズマン”で、まったく別の部署であるヒロインと接しながら、いつか、ヒロインも重要な役回りとなり、活躍する。そして、他の隊員たちが、彼らを支え、その姿が物語を盛り上げる。


 そうか。タイム・パトロールシリーズは、いつしか時間SFのレンズマンになっていたのか。

 そう思うと、楽しく読めるぞ。
 もちろん、行ったことのない歴史との遭遇、人類の創生期の姿、もしかしたらあり得たかも知れない世界など、時間SFには欠かせない要素が今回もみっちり詰め込まれている。
 気兼ねなく楽しんで欲しい。そして、ヨーロッパの古い歴史に関心を寄せてみるのもいいだろう。



(2004.10.19)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
(スパム防止のため、全角表記にしています。連絡時は、半角英数にてお願いします)

作家別テーマ別執筆年別
トップページ