はるの魂 丸目はるのSF論評


トリフィド時代

THE DAY OF THE TRIFFIDS

ジョン・ウィンダム
1951


 あかね書房の少年少女世界SF文学全集「怪奇植物トリフィドの侵略」は1973年に出版されている。これは読んだ記憶がある。
 映画「トリフィドの日」(人類SOS)は1962年の映画で、テレビで70年代に何度か放映されているはずで、私も見ていると思う。
 本を読んでいなくても、映画を覚えていなくても、「トリフィド」という食人植物の名前は何となく知っている人が多いと思う。
 私の記憶は、どうも映画を下敷きにしているようで、緑色の流星群の光で人類のほとんどが失明し、宇宙植物トリフィドが光を失った人類を次々と襲っていくという話のつもりだった。
 が、もちろん、大まちがいである。
 今回、きちんと原著の翻訳を読んだ。創元SF文庫版で1963年に初版が出ている。私の手元にあるのは1994年の23版。現在でも入手可能だそうだ。

 アメリカとソヴィエトの冷戦のさなか、人類の95%は豊かな社会を築いていた。自分で移動することができる食肉植物トリフィドはソヴィエトが開発したらしい新品種で、良質の油をとることができたため、世界中で栽培されていた。
 ある火曜日の夜、緑色の流星群が世界中の夜を明るく染めた。人々は歓声を上げ、空を見上げたが、その翌日には光を浴びた人たちすべてが失明していた。
 失明から逃れたのは、地下にいたり、病院で目に包帯を巻いていたりしたわずかな人たちだけ。彼らの生き残るための戦いが始まった。
 しかし、それは、人類の文明のサバイバルだけではなく、人類そのもののサバイバルともなった。トリフィドたちは、公園から、庭から、そして栽培農場から逃げ出し、人類を襲いはじめたのだ。数を増やしながら人類を一人ずつ追いつめるトリフィド。失いつつある人類文明の遺産を費やしながらも、新たな人類社会の可能性を期待して集まる人々。違う理想の議論や自暴自棄の争い。
 破滅テーマではあるが、「一度ないことにして、もう一度やりなおそう」というテーマでもある。
 読んで驚いたのは、生き残り、失明から免れた主人公が、緑色の流星群について語るところである。地球の周囲には、様々な国が兵器衛星を上げていて、核、生物、化学兵器が積まれている。その中のひとつが爆発したか、機能したのではないか。そうでなければ、流星の日のあと、あまりにも急速にチフスではない疫病が広がり、人々が死んでいったことの説明がつかない…。
 トリフィドが、人類の生み出したものであったこと、緑の流星群さえも、兵器であった可能性など、驚くことばかりである。
 本書には、1行だけだが、広島の原爆のことも触れられている。
 冷戦が本格化していく中で、社会の背景にあった「終わりの日」への恐怖が、本書に写し込まれている。それ故に、本書は長く読み継がれるのであろう。
 もちろん、不思議な移動食人植物トリフィドの魅力はいうまでもない。

 ぱたぱた。



(2004.09.25)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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