はるの魂 丸目はるのSF論評


永劫回帰

THE PILLAS OF ETERNITY

バリントン・J・ベイリー
1983


 宇宙観、あるいは哲学、あるいは宗教観というものは、人の人生や社会のありようまで大きく変えるものである。
 宇宙の時間はある日どこかで終わり、そして、まったく同じ時間軸で同じ宇宙が再生し、永遠にその繰り返しを続けている。だから、今、私が書いているこの文章も、そのときの私もまた、次の宇宙でまったく同じに再生される。繰り返し、同じ体験をするが、本人はそれを知ることはないはずだ。
 そんな哲学、宇宙観の世界で、ひとりの精神と肉体の機能を人工的に強化された男が、機能のバグゆえに苦しみ、痛みの正のフィードバックに放り込まれ、苦しみ、痛みゆえに死ぬことも失神することもできないまま、救い出されるまで痛みを、ふつうの精神では耐えきれないまでに感じ続けた。彼は救い出され、その機能を与えた組織から、生きるために必要な手段を与えられ、ふたたび自由になる。
 しかし、彼はもはや自由ではなかった。同じ苦しみ、同じ痛みを次の宇宙で自分が再び体験することに耐えられなかったのだ。彼は、宇宙観、哲学、そして、それに基づく物理法則にまでも立ち向かう。時間の流れを、未来の、次の宇宙のありようを変えるのだ。次の宇宙で自分が存在しなくてもかまわない。ただ、あの苦しみ、痛みの再生を終わらせたいのだ。必ず。どんなことをしても。
 進んだ科学力を持つ放浪惑星には、必ずこの宇宙の真理を解き明かす鍵が、時間を超える、宇宙の再生を超える鍵があるはず。
 彼は、ただひたすら、自分の未来、すなわち、自分の過去を変えるために、宇宙観、あるいは哲学、あるいは真理、あるいは物理法則に敢然と立ち向かう。

 そして、究極の喜びと、究極の苦しみと、なにかを得るのだ。

 この作品そのもののありようがよく分からないが、読んでみるとどことなく悲しい物語である。
 究極の痛みが拡大しながら永遠のように続くのって、字面だけでもいやだなあ。


(2004.9.16)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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