はるの魂 丸目はるのSF論評


時間線を遡って

UP THE LINE

ロバート・シルヴァーバーグ
1969


 SF界のポルノグラフィティである。
 時間旅行とタイムパラドックスものの古典でもある。
 しかし、やはり、本書は、SFの鬼門、セックスを扱った古典として、私の頭に焼き付いている。
 まだ中学生の頃に買ったのである。もう、どきどきものであった。あふれるセックス描写、遠いご先祖様や女王様との濃厚なセックス、濃密な愛。こんな本を読んでいるなんて知られてはならない、ということで、表紙はないのである。表紙といっても、真鍋博氏によるもので、ささやかなかわいらしい小さな女性のヌードがちょいと載っていたぐらいなのだが。手元にないのがまったくもって残念。
 今読むと、ポルノというほどでもないんだが、それは、今が21世紀になっているからで、当時は1970年代だったのだ。携帯電話もインターネットもない、ビデオゲームがようやく世の中に普及しだした頃のことだ。ヌードだって、ちょっとでも毛が出ていると発禁だったのだ。

 さて、本書の話だが、西暦2060年代、ひとりの若者が、時間サーヴィス公社のガイドに就職する。それでもって、自分のルーツ探しをするうちに、ご先祖様のひとりに惚れ込み、いてもたってもいられなくなり、猪突猛進。ところが、彼の客が勝手に時間旅行をはじめてしまい、別の時間軸でそのご先祖様を自分の妻にしてしまった。主人公は、タイムパラドックスを避けながら、元の時間軸に修復しようとやっきになる。同じ時間サーヴィス公社の警察部門であるタイムパトロールに見つかる前になんとかしなければならない。
 しかし、やればやるほど時間線はこんがらかって…。

 タイムパラドックスの王道をいく作品である。
 私は、この作品で、イスタンブールがかつてコンスタンチノープル、あるいは、ビザンチウムと呼ばれていたことを知り、トルコにずいぶんと憧れたものだ。そして、やがて、その思いは私自身をイスタンブールに運ぶこととなる。古い古い、そして、新しい、混沌とした街でした。

 ところで、本書は、「真の友 アン・マキャフリィに」と、あのマキャフリィに捧げられている。「歌う船」「パーンの竜騎士」など女性に大人気の女性が元気なSFを書く、あのマキャフリィである。たしか、シルヴァーバーグの方が年下だと思うが、おもしろい作品を彼女に捧げているものである。再読しないと見つけられなかった一文であった。
 ちなみに、私がマキャフリィを読み始めたのは、ずいぶんと最近のことで1990年代のことである。

 時間旅行ものでは欠かせない一作としておすすめです。


(2004.9.16)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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