はるの魂 丸目はるのSF論評


ナイトサイド・シティ

NIGHTSIDE CITY

ローレンス・ワット=エヴァンズ
1993


 標準地球歴2365年頃、エータ・カス星系の第三惑星エピメテウス。エータ・カスにはふたつの太陽があり、エピメテウスは、自然のささやかな気まぐれで自転が止まっていた。その夜側は居住可能であり、夜側の広大なクレーターはナイトサイド・シティと呼ばれていた。エピメテウスには、貴重な鉱山があり、ナイトサイド・シティは、鉱夫と観光客を相手にする歓楽街である。
 しかし、100年以上前にエピメテウスの自転は止まっていないことが判明。ナイトサイド・シティは、24時間ごとに138センチメートルずつ、人間が入植してからはじめての朝に向かっている。それは、ナイトサイド・シティの終わりの朝。すでにクレーターの縁は明るい光に満ちている。金のある人間は、開発の進んだ惑星プロメテウスに逃げていく。金のない人間は、シティの終わりを数えながら、最後は鉱山での肉体労働をするしかないとため息をつく。
 カーライル・シン。女性。私立探偵。エピメテウス生まれ。兄ひとり。妹ひとり。両親は、若い頃、子どもたちを捨てた。妹は、すでにエピメテウスを離れ、兄はカジノで働いている。自分の主義は変えない。以前は、シティの中心部で営業していたが、ある事件以降、中心部を追われ、朝に近い西側で客を待っている。安く、どんな仕事でも引き受け、確実にこなす私立探偵。しかし、人の逃げていく惑星で、彼女の仕事は少ない。
 今日も、ルイの店にいくこともままならず、仕事を待っている。
 やってきた仕事は、西はずれのただ同然のクレーター壁そばの居住者。失業者たちが絶望視ながら暮らす町の男。資産価値もない西はずれの土地や建物を何者かが買い占め、家賃をつり上げ、人々を追い出そうとしているという。探偵に払える金は夕食2回分がやっとの金額。カーライル・シンは、それでも仕事を引き受ける。誰が、なぜ、なんの目的で人が住めなくなる直前の土地を買うのか? 興味があった。それに、はした金でも金は金である。
 調べるほどにわからなくなる動機、なぞ。誰も死んではいない。金にもならない。
 ヒュンダイ製の知性体タクシーに乗り、人脈をたどり、ネットにもぐり、大型の銃で脅し、だまされ、殺されかけ、共生体を失い、そしてみつけた真実。
 ハードボイルドである。主人公の一人称である。タフでなければ生きていけないのである。優しくなければ生きる資格がないのである。
 格好いいのである。
 SFが好きで、ハードボイルドが好きならば言うことがない。
 ハードボイルドが好きで、SF的な用語が気にならなければ、読む価値がある。
 さらり、と読めて、にやり、とする。エンターテイメントはこうありたい。
 たまに、重たいSFに疲れると、本書「ナイトサイド・シティ」を読み返したくなる。
 こういうのはハリウッド映画にぴったりだと思うのだが、どうだろう。最近、SFの映画化がはやっているようだし。


(2004.8.25)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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