はるの魂 丸目はるのSF論評


内なる宇宙

ENTOVERSE

ジェイムズ・P・ホーガン
1991


 本書は、「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」三部作から10年後に出版された、続編である。時間的にも、「巨人たちの星」からそれほど経っておらず、主人公も同じである。しかし、個人的には、三部作+1作品だと思っている。

 さて、「巨人たちの星」で、地球人の同類であり異系列であるジェヴレン人の策謀を未然に防ぐことができた、地球人とテューリアン人、そして、テューリアン人の祖先であるガニメアンであるが、戦後統治は、惑星ジェヴレンの人工知能ネットワークシステム・ジェヴェックスを実質的に停止した状態でガニメアンを中心に行われていた。地球人は、ガニメアンを補佐するかたちでジェヴレンに入っていたが、その中には、政府関係者だけでなく、ホテル、闇の売人など様々な人種が混ざっていた。ジェヴレン人のおおかたは無気力になり、そして、ふたつの宗教勢力が力を発揮して、社会は次第に混乱に陥った。そこで、ガニメアンのリーダー・ガルースは、旧知の物理学者、ヴィクター・ハント博士に力を貸してくれと頼むのだった。
 ここからは、種明かしが含まれます。読んでいない方は、ご容赦を。
 本書も、前著に続き、ヴァーチャルリアリティと人工知能の存在がクローズアップされる。本書では、全人格、知覚型のヴァーチャルリアリティに入り込み、かつ、それをコントロールする人工知能が、その人の無意識領域までを実体化できるとなると、人間(地球人、ジェヴレン人)は、妄想の世界を構築し、そこに麻薬のような依存性を持ってしまうことを示唆する。これについては、ビデオゲームやネットゲームなどの進化過程で、さかんに言われていることであり、本書が書かれた80年代末から90年代頭にかけて、人工知能論、ヴァーチャルリアリティ論は、最初の盛り上がりを見せていたから、その中から生まれてきた発想であろう。
 さらに、そのような、全惑星的人工知能とネットワークシステムを維持するには、きわめて大きなコンピュータシステムが必要であり、そのシステムのマトリックスで励起した演算素子を基本粒子とした新たな宇宙が誕生し、マトリックスで進行する計算とは別に、世界の中で生命が誕生し、進化し、知性を持つ。内なる宇宙であり、エント人である。エント人は、マトリックスにおける演算素子の流れ=データフローを見ることができ、やがて、ヴァーチャルリアリティに入るため全人格的につながっている別の知性=ジェヴレン人に転移することを覚えていく。
 転移した世界すなわちジェヴレン人の中で、ヴァーチャルリアリティにいた人格は消え、エント人がジェヴレン人の体を乗っ取る。その多くは適応できず、狐つきのような状態で狂ってしまう。しかし、何人かは正気を保ち、この世界と折り合いをつけていく。
 エント人の世界でも、2つの勢力の争いがあり、それが、ジェヴレン人のふたつの宗教勢力の争いであった。ひとつの勢力は、混乱が続く中、この世界での権力をとり、自勢力のエント人を、この世界に多数引き入れようとする。そのためには、切断されているネットワークシステム、ジェヴェックスの完全起動が不可欠である。
 ということで、内なる宇宙の謎解きと、ジェヴェックスの再稼働をめぐり、さまざまな物語が進行する。

 実は、私は、これが邦訳で出版された1993年にハード・カバーで本書を買っている。2冊である。一度読んだっきり、忘れてしまっていた。
 久しぶりに、「星を継ぐもの」三部作を読み返し、書評を書き、何か忘れているような気がして、調べてみると「内なる宇宙」という続編に行き当たり、それがわが家の本棚に並んでいたという次第である。そこで、ふたたびほんしょを取りだし、再読し始めたのだが、正直なところ苦痛であった。
 1993年当時、まだ、インターネットは日常化されておらず、せいぜい、パソコン通信の時代である。WINDOWS3.1が登場した頃で、まだまだ、NEC9801+MS-DOSが現役の時代である。
 すでに、人工知能論やヴァーチャルリアリティ論は出尽くした感があったものの、現実感はなく、それは未来の話であった。だから、そのときはきっと、それほど苦痛でなく読めたのである。
 しかし、2004年の現在、本書を読むと、構成は違うし、内なる宇宙ではなく、マトリックスの中の独立した機械人格と人工知能人格ではあるが、映画「マトリックス」三部作の中で、同じような世界は描かれている。
 また、本書は、前著までのような、1冊ごとのテーマ性も少ない。
 一応、本シリーズは、謎解き的な展開になっているが、謎解きの必然性も薄い。
 さらにいえば、このヴァーチャルリアリティと内なる宇宙の誕生というテーマは、別に「星を継ぐもの」三部作の世界でなくても構築できる。後日談としてのおもしろ味にも欠ける。
 もともと、人間描写のおもしろくないホーガンが、さらに人間をたくさん書いているのだから、ますますつまらない。
 ということで、すっかり私の頭から追い出してしまっていた作品である。
 それでも、「星を継ぐもの」三部作の続編が読みたいという方には、おすすめする。
 それから、ヴァーチャルリアリティの問題点や、マトリックスシステムの中の知性といったテーマに興味があり、そういう内容について漏らさず読んでおきたいという方にはおすすめである。
 仮説として、正当性があるかどうかは分からないが、コンピュータシステム、しかも、今、我々が現実に使用しているようなハードなシステムの中で生まれる宇宙という概念はおもしろいかも知れないし、それを生み出すホーガンの力量は否定できないのだから。

(2004.4.28)



TEXT:丸目はる
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