はるの魂 丸目はるのSF論評


天の光はすべて星

THE LIGHTS IN THE SKY ARE STARS

フレドリック・ブラウン
1953


 ……ものを読めるほどの年頃になってからというもの、わたしはやたらにSFというやつに読みふけるようになったのだ。
 ……その作者たちは、夢をもっていた。そして、その夢をわたしたちにも分けてくれたんだ。その連中が書くものの中には、星屑がいっぱいちりばめられていて、それがわたしの目の中にとびこんできたんだ。(早川文庫版188ページ)

 4歳の時、そう、1969年のことだ。蒸気機関車、白黒テレビ、真空ラジオが現役だった九州の片田舎。電話も電子レンジもなく、もちろん、テレビゲームも、パソコンもない。父が私を呼んだ。7時のニュースだったと思う。テレビにぼんやりと白い宇宙服を着た人が写っていた。アポロ11号が人類初の月面着陸を行った日だった。宇宙は目の前に広がっていた。そのときの気持ちがよみがえる。
 本書は、1997年から2001年までの物語である。1960年代の華々しい月、火星、金星の探査計画実現後、冷え込んだ宇宙開発熱…。月と火星の植民地をやっとのことで維持しながらも、それさえ税金の無駄遣いとののしられる始末。
 もっと遠くへ! 宇宙熱にとりつかれた星屑たちが、木星への探査計画実現をめざす。
 21世紀は、目の前にある。

 ……未来。未来という時。わたしはいつでも紀元二〇〇〇年を念頭において考えたものだった。一九五〇年代、まだ十代の少年だったころ、それは信じられないほど遠い未来の、あまり遠くの先のほうにあって、本当にあるのかどうかわからないくらいだった。(同251ページ)

 1960年代生まれ、10代を70年代から80年代にかけて過ごした私もまた、21世紀を遠いものと考え、物心ついて出会ったSFとともに遠い未来を夢見ていた。そこには、月があり、火星があり、星々があった。
 しかし、70年代に計画されていたスペースシャトル計画は延期につぐ延期で、ようやく80年代になって宇宙空間に飛んだ。国際宇宙ステーション計画は、いまだ3割しか完成せず、2003年のスペースシャトル・コロンビア空中爆発事故により、さらに計画の遅れが起きている。
 我々から一番遠いところにいる人工物は、1977年に打ち上げられた宇宙探査機ボイジャーである。
 すでに21世紀は到来してしまった。月は遠く、火星はさらに遠い。
 50年代のSFには、星への希求がある。それは、渇望や羨望といってもよい。このせつなく、悲しいほどの願いは、しかし、寂しさではなく、喜びであり、希望である。
 未来は必ずくる。その未来は、自ら切り開くことができる。
 フレドリック・ブラウンがSFへの愛と宇宙への素直な願いを込めて書いた本書「天の光はすべて星」は、SF史に残る名作であり、疲れ切り、希望を失いそうなときに、耳元にささやいてくれる本である。
 なにより、タイトルがすばらしいではないか。
 そう、「天の光はすべて星」なのだ。
 今は、人工衛星もあるけれどね。


(2004.3.29)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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