はるの魂 丸目はるのSF論評


ドノヴァンの脳髄

DONOVAN'S BRAIN

カート・シオドマク
1943


 ロシアの作家・アレクサンドル・ベリャーエフが1925年に出版したのは、「ドウエル教授の首」、こちらは、ドイツ出身のアメリカ作家カート・シオドマクによる「ドノヴァンの脳」である。どちらも、古くから児童SFで訳されていて、本書「ドノヴァンの脳」は、あかね書房から「少年少女 世界推理文学全集」として1965年頃に出された「人工頭脳の怪/ノバ爆発の恐怖」でハインラインとカップリングとなっている。一方、「ドウエル教授の首」は、岩崎書店の「ベリヤーエフ少年空想科学小説選集」(1963年)にはじまり、「合成人間」「合成人間ビルケ」「生きている首」などというタイトルで、児童SF文学の花形となっている。
 どうも、この2冊、10歳前後に両方とも読んでいるようで、頭の中でごっちゃになっている。話も、なんとなく似たようなものである。きっと、「ドウエル」の方が、印象深いのだろう。ふたつのあらすじを読み直してみて、「ドウエル」を読んだときの印象が強い。
 さて、私の手元にあるのは、早川書房のいわゆる銀背の復刊版である。
 「ドウエル」の方は、創元社から出ているが、入手不能だとか。
 本書では、野心あふれる医師が、大金持ちの人間の事故救出現場に立ち会い、その完全には死んでいない脳髄を取り出して、生命を維持し、コミュニケーションをはかるうちに、やがてその脳髄=ドノヴァンに精神を乗っ取られてしまう。
 主人公は、なんとかしてドノヴァンの支配から逃れようとするが…。
 こういう古典を読むと、今のSFの底流を知ることができる。ここでは、脳を栄養液に入れ、精神感応でコミュニケーションしているが、今のSFなら、ヴァーチャル空間にデータをダウンロードし、そこでコミュニケーションしたり、データ空間に脳を連結させてみたり、そこで他人の精神に感染したり…ということになるだろうか。
 時には、こんな古い作品を読んでみるのもおもしろいものだ。


(2004.03.06 読んだのは03年秋)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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