はるの魂 丸目はるのSF論評


ダウンビロウ・ステーション

DOWNBELOW STATION

C・J・チェリイ
1981


 宇宙の三国志である。とはいえ、三極にカリスマがいるわけではない。さまざまな政治的、軍事的策謀の中で、主人公たちは、それぞれの立場、力関係から迷い、うごめき、苦しみ、希望を求める。一言で言えば、そういう物語である。
 地球とソル・ステーションを中心とした「地球会社」の影響力は、辺境のステーションによる「同盟」の前に弱体化していた。地球の政治体制は分裂し、「地球会社」が「同盟」に圧力をかけるために派遣した「会社艦隊」は地球の「会社」の援助が届かなくなり、次第に孤立する。「会社艦隊」の生き残りは、自分たちの存続をかけて「同盟」と対峙するが、「同盟」と「地球会社」の狭間のステーションや真の辺境を旅して商売を続ける「マーチャンター」や「同盟」ほど辺境ではなくてもソル・ステーション群よりは遠い「後背星」のステーション群にとって、「艦隊」は略奪者と同じであった。さりとて、「マーチャンター」や「後背星ステーション」としても考え方が異質な「同盟」とは与したくない。「同盟」は、人口を増やすためにクローン技術とテープ学習により均質化して育て、兵士や技術者として使っている。その社会体制に不気味さを感じている。一方の「地球会社」は、辺境の自立意識や開拓精神を理解せず、人間中心主義、地球中心主義に固執するばかりである。もちろん、「地球会社」側と心中する気もない。
 さらには、「後背星ステーション」のある惑星に住む知的生命体の存在。
 かくして、「会社艦隊」「地球会社」「同盟」「マーチャンター」「後背星ステーション」に属する様々な人間たち、避難民、艦隊艦長、捕虜、外交官、政治家、商売人、スパイらが、自分たちの動機を持ちながらも、運命に翻弄される。多くの人が命が奪われ、多くの別れを迫られる。
 個人の運命は、大きな政治的、社会的動きに左右される。とりわけ、戦争や革命、政治体制の変化のときに、個人の運命は激しく動く。
 引き金は、いくらでもある。技術的革新、宗教的熱情、資源の欠乏、人口の増加…、そして、時に大きな災厄となる。
 21世紀初頭にあたらめて読み直せば、911以降のアメリカを中心にした世界の変動は、まさしく今、個人の運命がゆさぶられる激しい時であることを思い知らされる。
 私には、今の変動の終わりが見えない。もちろん、911がはじまりではなく、911はひとつの特異点に過ぎない。次の特異点はどこで、いつ、だろう。そのことに気がつくだろうか。
 そして、5年後、10年後の私や私を取り巻く人々は、何をしているだろうか。
 少なくとも、希望だけは捨てないこと、自分の信じる「よい道」を探すこと、これは続けなくては。希望を捨てたところに、救いはないのだから。

2003.12.2



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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